【 公益財団法人 勤労青少年躍進会 理事長賞 】

生きる働く
東洋大学  廣川 心 19歳

私には将来の夢や野望や希望が特にあるわけではない。と言うより、持つことが怖い。「これ!」と決めようとしても、「いやいやできるわけないじゃん笑」「私には何もないんだよ?」と私が私に反論してくる。そしてそれを飲み込んでしまう。「もう、どうしたらいいの!?」と高校で進路を決めるときから自分の中で叫び続けている。
 高校時代、いや中学くらいからやってみたいと思うことがあった。でも自信がなくて、なんとなく恥ずかしくて誰にも言わなかった。高校で進路を決めるときに母に言ってみた。すごく反対されて、母が言うことはごもっともすぎて逆らうことはできなかった。担任の先生に一通り話してみて、「そこまで強い希望ではなかったんじゃない」と言われて、少しの苛立ちと落胆と納得が入り混じった。割と強い意志ではあった。でもその通りだったのだと思う。自分にできるはずないってずっと思っていて、夢を追うのは怖くて逃げたかった。「好きと仕事は違う」「夢と志は違う」その頃大人に言われた言葉。なるほどと思ったけど、私はよくわかってない。
 それから特に強い希望もなかった私は、東京の大学に進学することにした。大学のこだわりも特になく、「学費が安い学部にした」というのが一番の理由。改めて思い返すといい加減すぎて情けない。4月から上京して、一人暮らしで、大学に通っている。そして最近、スーパーでアルバイトを始めた。高校時代は部活漬けの日々だったため、初めてのバイトである。私が思っていたよりやることがたくさんあって、大変だけどけっこう楽しいと感じている。なぜかと言えば、「生きている」と思えるから。すごくうまくいっているわけでもないし、私はまだまだ戦力にはなれていないとわかっているけど、私は今ここで生きているのだと実感できる。
 東京に来て、一人になって、何もない私にも思うことはたくさんあった。知らない街、知らない人たち、初めての都会。3ヶ月くらい経ったけどまだ慣れないことがたくさんで、田舎に帰りたいとめちゃくちゃ思う。いろんな感情がごちゃ混ぜになる。ひとりだから、自分と向き合って、自分に話しかけることしかできない。それでも進むしかないから、次に家族や地元の友達と会った時に少しでも胸を張っていたいと思うから、今をちゃんと生きたい。アルバイトで働いて、他人から見たら大したことないと思われるかもしれないが、私は今ちゃんと生きていると思えた。いろんな職業の人が買い物をしに来ていて、それぞれ欲しいものを買っていく。あたりまえの営みは、複雑な絡まりでできている。それぞれどんな境遇があって今ここにいるのか誰も知ることはない。不思議で、それでも私もこの営みの一員であることがすごい、嬉しい。
 未熟すぎる私に今、「働くこと」を何かと言わせれば、「生きること」。生意気すぎる。本当に恥ずかしい。全然世界のことも社会のこともわかってないのに。これからどう生きるのか、私にも全然全然わからない。私は興味が散漫していて、行動力はないくせに、たくさんやってみたいことはある。働くことは私の想像以上に甘くないのだろうし、自分の私見を入れるようなものでもないのかもしれない。それでも、私には何もないため、とりあえずやりたいことをやってみる。生きている中で、働くことの希望を見つけたい。大切な人の誇りになるため、私が私の誇りになるために。

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