【公益財団法人 勤労青少年躍進会 理事長賞】

会話で笑顔に
日本大学三島高等学校  山本 紗野子

中学二年生の時、職場体験で地元の病院に行かせてもらった。当時の私は医療関係の仕事には全く興味を持っていなかった。そんな私がなぜ病院に職場体験に行くことになったかというと、私の友達のお母さんがその病院で看護師として働いていて、体験先が決まっていなかった私とその友達を誘ってくれたのだった。そんな流れで私は病院に職場体験に行かせてもらったのだ。
 職場体験中、私の心を動かしたあるでき事があった。それは透析の治療を見学させてもらっている時の事だ。太い注射針を腕に刺し、長い時間をかけて、体中の血液を機械に通すという治療を、私はその時初めて知った。そんな中、ある一人の透析中だった患者さんが、看護師さんに話しかけられ、話しているうちにみるみる顔が明るくなっていく様子を見た。私は言葉で表せないほどの衝撃を受けた。昔から人を笑顔にできる仕事に就きたいと言っていた私は、甘くて美味しいものを食べると幸せになれるからパティシエになりたい、と言ってみたり、みんな幸せになれる場を作る仕事だからウエディングプランナーになりたい、そんな夢を描いていた。そんな私にとって、元気のなかった人、不安そうにしていた人を会話で笑顔にさせていた看護師さんは輝いて見えた。私もあんな人になりたい、そう思ったのだ。
 それまで将来の夢がコロコロ変わる方だった私だが、その時の気持ち、看護師になりたいという気持ちが変わったことは今まで一度もない。看護師という職業について調べたりしていくうちに、私の中である目標ができた。簡単に達成できるようなものではない。でも、頑張りたい、叶えたい、そう本気で思えるのだ。
 看護師を目指せる大学に入る、そこが看護師になるためのスタート地点だろうと思っているのだが、そのスタート地点を目指している今でさえ、正直私はボロボロだ。入りたい大学に入れるような学力をつけるのは、私にとって大変なことで、苦しくなることで、辛くなったりすることもある。折れそうになってしまうこともある。でもいつも、叶えたい、頑張りたい、その気持ちが勝つのだ。元々こんなに粘り強いタイプではない私がこんな風になれているという今の自分を信じたい。だからこれからも夢に向かって頑張ろうと思えるのだ。
 病院、治療、検査、診察、そんな言葉を聞くと大小はそれぞれだとしても誰もが不安を抱くはずだ。その不安を少しでも取り除いてあげられるような、笑顔を少しでも増やせるような、私はそんな看護師になりたいと思っている。職場体験で見た、あの看護師さんのような会話で不安な患者さんを笑顔にできる人になれるよう、今、私はスタート地点である大学合格を目指して頑張っている。

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