【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事を通じて、かなえたい夢】
誇りをもって
東京都  き む ら  21歳

大学生になって初めて、アルバイトを経験した。高校生まで校則で禁止されていたために、私は労働というものに触れたことがなかった。元来、新しいことに挑戦するのが好きな性格で、今まで禁止されていたことから解放されたワクワクも相まって、期待に胸を膨らませながら面接に行ったのを未だに覚えている。年上の従兄が自身で働いて稼いだお金で旅行に出かけているのを見ると、その期待はなおさら大きくなった。自分で使うお金を自分で生み出すことは、シンプルにかっこよく見えた。何より、少し前に上京して一人暮らしを始めたこともあり、自立した気になって少々鼻が高くなっていたのかもしれない。とにかく、私は労働の厳しさを知らなかった。

始めてみると、このアルバイトというものはなかなかに大変だった。慣れない作業を伴うと頭の回転は急に鈍くなり、あれ、できないとひと度焦ると失態は続き、こんなはずじゃないのにと自分を責めながら帰宅する日も少なくなかった。幼い頃から負けず嫌いで、努力は惜しまない性格だと自負していた。だからこそ、経験者に叶わないもどかしさ、自身の理想通りに動くことのできない辛さが、慣れない一人暮らしの私にのしかかった。努力と結果は比例するものではなかったのだろうか。柄にもなく悩んで泣いたりして、母に電話をかけたことがある。

母は電話口で泣きじゃくる私の声を耳にして、驚く様子もなかった。私が自身の失敗や未だ慣れなかった職場の緊張感ある雰囲気、少し嫌味な上司のこと等を感情のままに話すのを、丁寧に相槌をうちながら聞いてくれた。ひとしきり話し終わって少しの沈黙があった後に母が放った言葉は、ありきたりだが忘れることができない。「よく頑張ったと思うよ、今の話、すごく面白かった。あなたは辛かったと思うけど、私からしたらさ、ああ、そういうことも考えられるようになったんだな、とかそんなことにも気が付けるようになったんだなあ、とか、親としてはさ、成長が感じられる気がして、嬉しいんだよね。多分これからもっと悩むことも辛いこともあるかもしれない。でもね、話してちょっと楽になるならさ、その度にこうして連絡してくれたらいいじゃない。その度に私はきっと、娘の成長を感じられるんだよね。あなたがやりたくて選んだ仕事で続けたい意地も持ってる位だから、絶対になにか得られるものがあって、そういう魅力があるんだなって私は思うんだよね。だからさ、やりたいところまでやって、また面白い話、聞かせてね。」覚えている限りで、ざっとこんなことを言っていたのを思い出せる。そのあとからきちんと具体的に、相談にものってくれたのだった。

母にとっては、私の辛さは娘の成長でもある。娘が離れた場所で、どんなことをしていてどんなことを思い、そして学んでいるのか、私の悩みを聞くことで理解し想像することができたのだという。「働く」ということの厳しさ、難しさは母もきっとよくわかっているはずだ。仕事に悩み苦しむことが、通らざるを得ない成長の道だということを母は理解しているのかもしれない。でも「働く」ということはやはり名誉なことであるし、母の言うように親から見た娘の労働はきっと、誇りに思えることなのだ。

将来どんな仕事に就くのだろうか。同世代の若者は、きっと同じような悩みを抱えているに違いない。その中で私が仕事を通して叶えたい夢は、自分がやりがいを感じられどんなに大変な内容であっても母に自慢できるように働くことである。目を輝かせながら「大変だけど、こんなことを学んだ」「この仕事は、だからやめられない」と伝えられたら、なんと素敵だろうかと思う。母が近所の人や友達に自慢できたりしたら尚嬉しい。これは母のために働くということではなくて、母に胸を張って、自信をもって話せる程自分自身が誇りを持てるようになりたいという想いである。就職活動はもう、始まっている。

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