【 佳   作 】

【テーマ:現場からのチャレンジと提言】
キラキラした瞳に出会う為に
兵庫県  志 福 え り  52歳

「はいっ、この絵を見てー。日本的だと思うところはあるかな?」

小学校高学年の授業のひとコマ。ヨーロッパ印象派の絵画を広げた。

「あるあるー。これ着物だ!」

「ここにも、こっちは扇子を持っている」

「えーっ?これ外人が描いたの?」

いつもは発言の少ない子供たちも、口々にするどい意見や、やわらかい感性を訴えてくる。

答えは全て ' 正解 '。いつもはめったに声を出さない子も , 活気に満ちた表情で参加。私は答えに耳を傾けながらコメントをしていく。

「あー、よくわかったね。これってなかなかの発見よ」

すると、それに呼応するかのように

「スゴイなー。よー見とるな」

などとクラスメイトから感嘆の声が響く。


数年前から学校司書として、小・中学校で働き始めた。二年目に入った際の研修で、図書を使った授業をすることを要請された。

「えっ?授業。私が!」

最初はどうしようかと悩んだ。授業をするのも緊張するけれど、プロフェッショナルな先生を前にして、なんて、、、、かなりおこがましい。しかしここはチャレンジだ。

まずは子供達の様子を知らなければと思い、許可をもらって授業を見学。低学年はハイッ、ハイッと勢いよく手が挙がる。が、学年が上がるにつれて、手は膝におかれたまま。視線は足元を見つめたまま。これって、答えが違っていたら恥ずかしい、という気持ちからなのだろう。

図書の本を使って何とか皆に上を向いてもらいたい。そう考えた時に頭に浮かんだのが、どんな答えも正解ということ。そして、ちょうど中学で廃棄にする美術の本があったのを思い出した。確かにページがとれかかって、表紙も少し汚れているけれど、中味は健在。小学校にはない名画の全集だ。

早速、中学校の先生に許可を得て小学校でもらい受けた。

こうして、印象派の画集をつかって、ジャポニスムを学ぶことにした。浮世絵や日本庭園、ヨーロッパとの時差、通貨、江戸時代の庶民の生活や北斎の生涯など、様々な分野を織り交ぜて子供達の発見を促したり興味を引き出したりする授業を行った。一つの教科に留まることなく、切り口を多彩にした時間。こうすることで、よりリラックスした空間を作ることを心がけた。発表したことが訂正されることがない、といった安心感によって、子供達の発言は徐々に増していった。


そうか。こうやって子供達の興味喚起を行うっていけばいいんだ。

悩んだ挙句にひねり出した考え。それに基づいて行う授業。

一科目という枠を取り払ってどんな答えも尊重するようにすれば、子供たちも足元に視線を落としたまま時間をやり過ごすこともなくなるであろう。


次は音楽の話を用意して名曲を味わってもらおうと企画している。

「この曲知っている?きっとどこかで聞いたことあるよねー」


キラキラとして美しい瞳が上を向いて、興味の翼を広げるために。

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