【 佳   作 】

【テーマ:仕事を通じて、かなえたい夢】
「夢」と夢
埼玉県  眞 田 正 和  45歳

「夢を持て」「夢に向かって」この言葉の重圧がどれだけ多くの若者を苦しめ、働く意欲を失わせているか私はよく知っています。そして若者もこの言葉を利用して現実から逃げようとしている時があります。「夢」は口触りと使い勝手が良いため、あらゆる場面で使われますが、本当は「夢」と夢の2つの意味があるのではないかと思います。これからの輝かしい未来へ向かう若者が、働くことに対して疑問を持たずに夢と共に暮らせるように、その意味について語り掛けたいと思います。

工業高校の教員として勤務して20年。私は様々な生徒と共に過ごし、社会へ巣立っていく姿を見届けてきました。高校生というと一見フレッシュで生きる力がみなぎっているように感じるかもしれません。しかし、色々な学校があるので一概には言えませんが、入学してくる生徒全員が若々しく輝いているわけではありません。多くの生徒が自分について悩み、将来に何も希望を持てずに不安な日々を過ごしています。生徒の周囲には「「夢」を持ちなさい」とか「やりたいことを見つけなさい」とか言う人が大勢います。でも、その人達の多くは「夢」を持たずに現状を幸せに過ごしている人たちなのです。「夢」はなくとも幸せに過ごせる」これは、今の世の中で十分可能であることを若者にはぜひ知ってほしいと思います。ここまでに言っている「夢」とは一つ目の意味で、世間に認められる自己実現のための目標のことです。研究者になりたいとか銀行員になりたい等、社会的地位に対するもので、多くの大人が言っている「夢」はこれの事です。若者の多くはこの「夢」を持っていないことで劣等感があり、「夢」を周囲から求められるので、息苦しくなり、最悪の場合は引きこもりになるのです。

しかしほとんどの若者は、もう一つの夢は持っています。私が聞いたことがあるのは「女にもてたい」、「二次元のキャラと結婚したい」、とか「三食昼寝付きの生活がしたい」なんていうのもありました。これらは二つ目の意味の夢で、本人たちが楽しく生きるための糧となる空想のことです。若者だけでなく全ての人が持っている欲望です。これらは若者にとって立派な夢なのに、世間では否定されることがわかっているので彼らは口に出すことはほとんどありません。暮らしの中で密かに楽しんでいるのです。

生きるために必要なことは、夢があればあとは日々の暮らしを支える仕事だけです。特にやってみたいものがあればその職業を目指し、なければ無理なく働ける職場に入ればいいのです。夢と一緒にいるために、自分を見失わない程度に働けば自分にとって最も良い暮らしができるようになります。また、働くことで自分の世界が広がっていくので、より進化した夢を作り出すことができるようになります。仕事で賃金を得れば生活が安定し、好きなだけ夢と共に生きることができます。ゲーム三昧の暮らしをしても、二次元キャラに囲まれて生きても非難されることはありません。思い切り自分らしく生きてください。稀に働いていく中で「夢」と出会う場合があります。「人のために尽くしたい」「出世したい」などという気持ちが芽生えたら、そちらも欲張って実現に向けて努力してみてください。働くというのは本来苦痛なものではなく、人生を有意義なものにしてくれる夢のためのスパイスですから、かけ過ぎなければおいしい人生を作り出すことができると思います。

自分らしさである夢を維持するために仕事は必要です。でも、自分ができそうなものをやればいいのです。合わなかったら次の仕事をすればいいだけことです。気負わず、気楽に毎日を楽しみましょう。そうすれば、未来は自然に開けます。多くの若者が自信をもって働き、夢と共に生き、昨日より楽しい日々が毎日訪れるように、我々も人生の先輩として微力ながらお手伝いをしたいと思います。

戻る