【 奨 励 賞 】

【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
管理職というスペシャリスト
和歌山県 さ き み ち 33歳

私は病院の中にある薬剤部で働いています。薬剤部は薬のスペシャリストと呼ばれる薬剤師の集団で す。病院の中には様々なスペシャリストがいて、それぞれが自分の専門分野で力を発揮し、日々の診療 に取り組んでいます。それは「チーム医療」と呼ばれることがあります。そのチームの中では上下関係 は存在しません。医師であろうが、薬剤師であろうが、看護師であろうが、栄養士であろうが、それぞ れが対等の立場で話をする、というのがチーム医療のあるべき姿です。

しかし、同じ「薬」という専門分野をもつ薬剤師の中では、上下関係が発生します。例えば私の所属する薬剤部には、薬剤部長、副薬剤部長、主任という役職が存在し、さらには先輩、後輩という関係も あります。つまり、普通の会社と同じです。

薬剤師はそもそも薬のスペシャリストなわけですが、実はさらに細かく専門分野があります。例えば 癌に詳しい、感染症に強いというようにです。「○○専門薬剤師」といった認定を取得している薬剤師も います。専門を持つ薬剤師はその分野に精通しており、同僚からは困ったらあの人に聞こう、あの人が 言うなら間違いないだろうと、頼りにされていることが多いです。いわゆる、仕事のデキる人です。し かし、そういった薬剤師が人を管理することも得意かといえば必ずしもそうではありません。ある分野 を専門としている薬剤師は同僚の薬剤師からも頼りにされ、医師からの信頼も厚く、学会発表も頻繁に 行っているのかもしれません。デキる人と思われているかもしれません。しかし、役職がつくとどうで しょう。薬剤部の中の役職につくということは、薬剤部のマネジメントに携わることになります。いわ ゆる管理職という仕事です。今まで「デキる人」だったスペシャリストが、管理職につくことで、その 専門性を活かせず、急激に部下からの信頼をなくすことがあります。一方で、今まで専門性を発揮して こなかった薬剤師が急激に評価される場合もあるのです。管理職にはいわゆるスペシャリストとは違う 能力が必要なのでしょう。現在、薬剤師の世界ではスペシャリストが評価されつつある時代です。仮に 実力順で昇進するとすれば、スペシャリストとして名を馳せた薬剤師が管理職へ上がるということにな ります。しかし、管理職に必要な能力はなんでしょうか。偏った知識よりもむしろ様々な分野の知識と 経験が必要であったり、適材適所に人材を配置できなければならなかったり、他部署との調整や他部署 へのアピールにより薬剤部の地位を確立させる戦略を図る能力が必要だったりと、いわゆる専門性が必 要というわけではないのです。スペシャリストとしては、力を発揮できなくても管理職としては頼もし い人材もいるのです。もちろん、スペシャリストとして上りつめた人が、管理職としても優れている場 合もあるのでしょう。しかし、そうでなくてもいいのです。管理職につく人は管理職というスペシャリ ストであるべきなのです。

病院というところは、昔は医師が上に立ち、その下に他の医療従事者がいるという「縦社会」でした。それが「チーム医療」を通じて、対等な立場で話をしようという社会に変わってきています。薬剤部の 中も「縦社会」ではなく、それぞれが専門性を発揮する対等な社会になることを願わずにはいられませ ん。管理職が「上に立つ」人ではなく、数あるスペシャリストのうちの一人になればいいのにと。

戻る