【佳作】

「女が社会で働くってことは、そういうモノが付き物だよ。」 愕然とした。セクハラを受けて悩む私に対して、知人男性が放ったひとことは脳みそが揺れるほど衝撃だった。怒りや焦り、虚無感、喪失感。いろんな感情が押し寄せてきた。最後に残った感情は憤りだっ た。

私は誰よりも真面目に責任をもって働いてきたつもりだ。もちろん誰かを誘惑するようなことはして いない。多くの人に相談するのも勇気がいることだったのに、返ってきた答えはどれも腐っていた。

「セクハラを拒否しないのが悪いでしょ。」

「あなたが若かったから仕方ない。」

私は恐ろしかった。被害を受けた者にしか分からないこの感情をこんな言葉たちに片づけられてしまう。身体が震えた。

私はまだ20歳で、社会に出たばかりの青二才である。周りから舐められるのはある種の洗礼だと感じ た。しかし、許されないことは許されないのだ。社内で密かに告発の準備をし、奇跡的に加害者を社内か ら追い出すことができたが、それまでの時間は地獄だった。肌荒れなどの小さな変化から、突発的な高 熱や幻覚などに見舞われた。眠れない日々を過ごすうちに死んだ方が生きるより楽であると感じた。そんな時、私を救ってくれたのは恩師だった。

「頑張るところを間違えないで。いつものあなたならもっと聡明な判断をなさるはずよ。」

この言葉がなかったら今頃泣き寝入りをしていたかもしれない。自分と未来のために闘った1か月は 本当に長かった。私は運よく、周りを味方につけることができ、クビに追い込むことができたが世の中 みんなが告発できるとは思えない。体験者だからこそ分かる気持ちだ。助けを求めるのは襲われた時と 同じ恐怖感だった。職場で加害者を目にすると心臓がバクバク暴れ出して呼吸が難しくなる。助けを求 めたくても、声がうまく出せない。下手な笑顔を浮かべてその場しのぎの毎日。心は死んでいた。

私にとって生きがいだった仕事を奪われたような気がした。被害に遭うまでは仕事が楽しくて仕方が なかった。毎日が輝いていて誇らしかった。仕事が大好きな自分が大好きだった。けれど、今はどうだ ろう。身体の不調から思うように仕事ができず、仕事をしてもフラッシュバックに悩まされる。加害者 を社内から追いやることができても私の心には傷が残ったままで、働く喜びが消えた。恐怖はいつまで も付きまとう。

「いつまでも怖がっていないで。もう20歳でしょ?子どもじゃないでしょ?」

「そんな暗い顔しないでよ。もういなくなったんだから。」

同僚や上司から言われた言葉たち。大人だから?もういないから?そんなものは関係ない。怖いもの は怖いし、傷は傷なのだ。それでも働く理由とは──。

これ以上、犠牲者を出したくないからだ。夢や希望を詰め込んで、働くことを決意した女性たちがど うしてセクハラを受けて悩み苦しまねばならないのか。女性が社会で働くうえで、そういったモノが付 き物だとしたら、それは変えなければならない。誰かが立ち上がらなければ被害をとめることはもちろ ん、減らしていくこともできない。

セクハラ以外にも女性の社会進出には様々な弊害がある。妊娠や出産、昇進などにも女性という縛り が邪魔をする。それに伴い、晩婚化や少子化が進み、一方では仕事のために女の夢を諦める人もいる。こんな悲しい社会で生きていたくはない。私ひとりの力などたかが知れているが、同じ意思をもつ女性 はこの世に多く存在する。その女性たちとともに、社会を変えていくことは可能である。まずは、女性 が働きやすい会社を設立し、私生活との両立を実現させる。そういった会社がひとつでもできれば、女 性にこんなふうに生き生きと働ける職場があるということを認知してもらえる。女性は生き方を認めて もらえたと感じることができるだろう。そうなれば、今まで声をあげられなかった女性たちも動き出し、 改革は進む。「伝染」するのだ。私はその「菌」になるのだ。