【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
大切なこと
群馬県 Initial K 49歳

『なぜ働くのか?』

休憩時間の茶飲み話。「生活資金。」「旅行に行くため。」「ブランドバッグが欲しい。」「子供の教育資 金。」「老後の蓄え。」「とにかくお金が欲しい!!」人助けのために!より良い社会のために!なんて、後 光の射すような答えは無い。まあ、何かに言ってもお金がないと何も出来ないのが現実。

『お金を稼ぐためだ。』

それぞれの希望を叶えるために、私たちは働いている。

ファミレスで働きだして12年目の私はもうすぐ50歳。転職したての頃は、人見知りの私が接客業?! と友人が驚いていたものだ。この仕事、注文を伺って、料理を提供、片付ける。くらいにしか考えてい なかった。店長は「徐々に覚えればいいよ。実践あるのみ!」と、簡単なレクチャーを受けただけで初 日から客席に出された。水とおしぼりを運ぶことが最初の仕事。トレーに5つのお冷とおしぼりをのせ て客席に向かう姿は初期型ASIMO君のようだった。毎日が緊張の連続。1週間を過ぎた頃、注文の とり方を教わった。間違っちゃいけないと更に緊張している私にフロントリーダーのアドバイスは意外 なものだった。

「良い人になる!」

えっと...。私が知りたいのは、こういう時はこうして、そういう時はそうして、実際の手順や、対応 の方法なんだけど...。

彼女はこう続けた。

「お客様に喜んで頂ける事ってどんなことだと思う?」

マニュアルを覚えることに必死だった私は想定外の質問に固まった。

コーヒーのおかわりが欲しい時、呼び鈴を鳴らす前に「おかわりいかがですか?」と来てくれたら ちょっと嬉しい。パソコンを出そうとしているときに「お皿、おさげしてもよろしいですか?」と気が 付いてくれたらちょっと嬉しい。こんな小さな事だけど、フロントの仕事はお客様が思うことの一歩先 を考えて行動する事が大切だと。

「失敗?気にしないでいいよ!私だっていっぱいあるよ。」

肩の力が抜けた。子供の頃、お年寄りにバスの席を譲ろうとしたら「結構よ。」と断られた。周りの視 線に、何だかとても恥ずかしくなったのを覚えている。それからしばらく声掛けが出来なかった。それ がきっかけだったかな?引っ込み思案になったのは。ふと、そんなことを思い出した。ここではそんな こと気にせずに良いと思うことを率先して行動する。それが仕事だという。

「お客様が喜んでくれると私たちも嬉しいよね!」

『仕事内容は良い人なること!』

「自分がお客様だったらって考えて、してもらったら嬉しいことをどんどんやろう!」

明るい彼女はとびきりの笑顔で右手のグーを突き上げた。

あれから12年。彼女はもうお店に居ないけど、私は仕事を続けている。毎日たくさんのお客様が来店 されるファミレス。いつも焼き鮭朝食をご注文のご老人、出勤前のコーヒータイムが日課の行政書士さ ん、わざわざバスに乗って来て下さる先出しダージリン紅茶のご婦人、キャンペーンでは大量購入して くださるネイルショップの社長さん、ご家族でいらしてくださるお向かいさん、年甲斐もなくドキドキ してしまう韓流スター似の素敵な男性。年齢・性別・職業、様々な皆さん。数ある飲食店の中で当店を 選んで下さった皆さんに喜んで頂けるように今日も頑張っている。

「ありがとう。」

お客様の言葉が嬉しい!そう、働くってお金を稼ぐためだけじゃなかった。

こんなふうに考えると、くよくよしていた昨日の失敗も、また頑張ろうと前を向ける。仕事って、働 くって、人類の未来のため、科学の進歩のため、そんな壮大な仕事も、ファミレスで働く事も、きっと 誰かの何かの役に立っている。何気ない日常の一コマで関わっている。みんな大事なんだ。そうして繋 がっている皆さんに、私の出来る事。あの日、彼女に教わったこと。

【くつろげる空間と出来立ての美味しいお料理の提供。それと、ちょっと嬉しいことを最高の笑顔で!!】

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