【努力賞】
【テーマ:仕事を通じて、こんな夢をかなえたい】
祖父の背中
日本大学商学部  六渡三紗  19歳

私が働くということを考えるとき、祖父を無視することはできません。幼いころから私の1番身近な「働く人」は祖父であり、少なからずその影響を受けて育ったのです。

私の祖父は自営業を営んでいます。自営業といっても、祖父の頭が資本といってもいいぐらい小さな会社です。そんな小さな会社で何をやっているのかというと、民話のテレフォンサービスを提供しています。テレフォンサービスというと聞きなれない人もいると思いますが、いたってシンプルなサービスです。特定の電話番号に電話をかける、すると受話器から民話が聞こえてくる。ただそれだけのことを40年近く続けているのが祖父の会社です。このエッセイを書くにあたり、改めて祖父と話をしました。なぜ今の会社を始めたのか、自分の会社は社会においてどのような役割を果たしていると思うか、など話しながら疑問に思ったことを聞いていきました。

祖父は始め普通のサラリーマンでした。しかし当時住んでいた家の近くには、昔話を知っているおじいさん、おばあさんが多く住んでいたようで、昔から民話を好きだった祖父はよく話を聞きに行っていたそうです。ある日、おじいさんに「ああ、あそこのおばあさんはたくさん面白い話を知っていたのにな。去年亡くなってしまったんだよ。」と言われた時、祖父は誰かが語り継がなければ1つの文化がなくなってしまうと思い、各地を巡りその地域で紡がれてきたお話を再編しながら会社を立ち上げたと言いました。日本文化を次世代につなげるということを大切にして働いてきた祖父。私が子供のころ、祖父は毎日昔話を話してくれました。そのことが私に民話に限らず、上の世代から受け継がれずに失われていっている日本古来の文化をつなげていくということに興味を持たせたのです。

また、祖父は文化とは暮らし方と考え方なのだと言いました。文化に寄り添ったものは受け入れられ、支えられると。私は文化に寄り添うとは暮らしや考え方に基づく共感があるということだと思います。そしてそのような共感のあるものは長続きするものです。

祖父は仕事が楽しいと言います。仕事をすることが生きがいであり、自分の仕事に誇りを持っているというのです。つらいことがあっても頑張ろうと思えるのは好きなことをやっているから。自分の1番好きなことが仕事になって、それがまた社会に役立つことであればこんなに幸せなことはありません。

私は自分のためだけではなく、日本文化を次の世代につなげるという思いを持って働きたいと思っています。自分が楽しく生きると同時に、古き良き日本文化、もしくは日本の良さを広められるような仕事をして、日本が好きだと自信をもって言える人を増やしたいです。つまり働くということは、何のためにどのような影響を与えたいのかを考えて行動していくことだと私は思います。

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