【努力賞】
【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
笑顔のご褒美
静岡県立磐田農業高校  兼沢美月  18歳

収入を得ることが働くということの意義だろう。給料明細書や給料が振り込まれた通帳を見るとき、般若のような顔になる人はいないはずだ。仕事をした分、紙に刻みこまれた数字は目に飛びこんできて喜ばしいものだ。私は学生の身である。仕事について語るには経験が浅いことを大目に見てほしい。

私は少し前まで親の経済的負担を減らすために、アルバイトをしていた。働かせてもらっていた所は地域密着型のお菓子屋さんだった。和洋菓子にパン、お餅やお赤飯など様々な商品があり、他の菓子屋と比べて客層も幅広いと思う。御祝いのお赤飯や御供えの進物、仕出しのお菓子など、よく注文が入っていた。

働き始めた頃は簡単な作業も上手く出来なかった。じきに慣れると思っていたが、一向に仕事をこなすことが出来ず、私がお店に出ることが迷惑になっていると考えていた。仕事の中でも苦手としていたのは会計だ。お客さんがレジに商品を持ってくると、私の中では闘いが始まる。他のお客さんがいたとしても、レジの前に立つお客さんと私だけの空間が広がる。お客さんの視線が、レーザーのように私を照射する。レーザービームが私の動きを鈍くさせる。リズムの悪いレジの音が響くと、お客さんの表情が曇ってしまう。その時私は負けを実感する。これが何ラウンドも続いて私の心が重くなるのが日常だった。

普段通りの一日を過ごしていたとき、一人のお客さんが来た。包装を頼まれたが、時間がかかり待たせてしまった。また表情を曇らせてしまったと思っていたが、お客さんを見ると、温かい笑顔でこちらを見ていた。会計のときも微笑が絶えることがなく、帰り際の人は「ありがとう。また来ます。」と言って店を出ていった。とても嬉しかった、私も自然と満面の笑みを返していた。

その日以来、私は笑顔を意識するようになった。笑顔は簡単に出来るようにみえて難しい。きっと引きつった笑顔になっていたこともある。だがしかし、良い笑顔が出来たときは仕事も上手くいくようになり、また、仕事が出来ると笑顔も自然と出てくる。私はこの笑顔と仕事の相乗効果をなぜ気付くことが出来なかったのか失笑した。笑顔はお客さんにも移り、小さな子も大人も笑みを返してくれた。

その笑った顔が見たいと思うと仕事にも力が入って、日々の仕事が充実していった。

どんな仕事でも笑顔は働く力をくれるだろう。私は就職する時が次第に近付いている。まだ先は見えないが、アルバイトをして得た笑顔の力を忘れることはない。相手が笑顔になる、そんな笑顔を絶やさず、励みにしていきたい。給料はもちろん笑みがこぼれてしまうが、笑顔のご褒美を頂けるよう、仕事も懸命にしたい。

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