【佳作】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
四角い空から、夢を抱えて
福岡県  一春  27歳

暑い。またこの季節が巡って来たんだ、と茹だる熱気を肌で感じて緩い深呼吸をひとつ。次から次へとにじみ出る汗をお気に入りのハンカチで拭いながら見上げる空は青く。

そして以前より、ずぅっと高くなった。

昨年「若者を考えるつどい」へ応募しエッセイに努力賞を頂いた日を、とてもなつかしく思う。あれから私は部屋の内へ外へを繰り返しつつも自分の足で仕事を探し、面接に挑戦し。なんとか就職へと漕ぎつけた。さぁこれでもう私だって社会の一員!今夏は念願の、お高いチョコミントアイスを楽しみ…と満喫したいのは山々だけれど。もとはドアすら恐れていた引きこもりニートである。人間そう簡単に変わるものじゃあない。

現状と言えば、環境の変化に心身ともに耐えきれず一週間できつい風邪をひき、咳を引きずり喘息まがいになり。ストレス性の体調不良に倒れ、とうとう救急車で搬送される始末。なんとも情けなく、お恥ずかしい話である。

けれど、それでも私は生きている。

呼吸をし、今日も自分でドアを開き外へ踏み出せる身体と、その意思がある。そしてこんな人間でも生きられる場所が、この世界のどこかにあるんだと知った。もちろん世界はだれにとっても専用にはできていないし、世の中で働き『生きる』ということは大変だ。でもせっかく頂いた命だから。諦めるまえに、何度だってどこへだって行ってみればいいんじゃないかと思えるようになった。そう私だけじゃなく、今現在同じように苦しむあなたも。

運悪く社会に出損ねた誰かに、ドアを恐れるきみに伝えたい。

これから一歩を踏み出せば、今すぐ世界が変わるよ!なんて、まるでどこぞのセミナーのような事は言わない。けれど知って欲しい。閉じた扉の向こうは優しくない。初めての連続や緊張の嵐、体調を崩すことだってある。でも世界は、部屋の中から見上げるよりもずっと広くて自由で、どんな人でも生きられる場所が、きっと世界のどこかにある。もし一度見つけた場所がだめだったとしても、また別の場所や方法を探していけばいい。働いていない立場から見上げた世の中は死ぬほど恐ろしく、生きる人々はきっと自分とは何かが違うんだとかつての私は思っていたけれど。なんにも違いなんかない。

どの人も同じようにひとつひとつのことに一喜一憂しながら、なんとか人生の舵をとっているのだ。喜びもあり苦しみもある。

仕事を始めてそんなことをしみじみ実感するようになった。

知らなかった色々なもの、新しい景色。きっと知れば知るほど私の世界は広がっていくのだろう。急にたくさんは難しいからゆっくり。自分のペースで世の中を覗いて行ければ良いなぁなんて思いながら、今日もコンビニのアイスに手を伸ばす。今はまだ、安い箱のチョコミントで手一杯だけどいつか、念願のハーゲンダッツを味わってみたい。272円の夢はもう少し先にとっておこう。きっと実現するだろう沢山の夢を胸に抱え、今度顔を合わせる若者サポートステーションのIさんを思って笑みが零れた。

梅雨明けした街を抜けていく足取りは頼りない。人波にもまれ、まさに田舎者丸出し。だけれどしっかり地面を踏んで、一歩ずつわたしらしく。

日傘を畳むと、今日も汗だくで会社の入り口をくぐり、少し緊張しながら息を吸い込む。

『おはようございます!』

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