【 佳 作 】

【テーマ:仕事・職場・転職から学んだこと】
道がある限り
東京都 山野幸 31歳

『苦手な事を排除しない』漫画家の師匠からの教えである。

2015年1月、私は某漫画家の先生に正式に弟子入りし、以来漫画を学んでいる。
3年前、『作家になりたい』という思いだけで上京したが、その中に漫画家を目指すカテゴリーは含まれていなかった。
絵が苦手だった。漫画は大好きだったものの、絵のスキルが問われる漫画を描くことは最初から諦めていた。その私が、何故、プロとして活躍中の漫画家に弟子入りしたのか。
きっかけは、漫画原作者を目指し、通いだした漫画教室だった。そこで講師をしていた漫画家の先生が、今の私の師匠である。師匠が弟子募集を始めた時、私はすぐさま名乗り出た。師匠の教えが好きだったから。そして、絵を描くことが苦手なはずの私が、漫画教室に通っているうちに、漫画を描く楽しさを知ってしまったから。
『苦手な事を排除せず、続けていたら、そこで得られるものもある』これが師匠の教えだった。師匠に弟子入りを名乗り出たのは直感みたいなものだった。
私は、それまで、すぐに何でも『面倒くさい』という気持ちが芽生えると、努力などせず物事を投げ出してきた。
人間関係に関してもだ。
その私が、今、師匠の教えを胸に『苦手な事』を決して諦めず前に向かって歩いている。
漫画以外に作詞、ファッションマガジンのライターを始めた。この三つに共通している点は、どれも新しいジャンルであること。
漫画原作や詩では、何度か入選するくらい書く事が大好きだったが、作詞、漫画、ライターに関しては、完全に無知だった。 ある日入選した詩を読んでくださったプロの作曲家から作詞の依頼が来て、軽い気持ちで引き受けたのだが、想像以上に過酷だった。元々、詩を書くことが大好きで作詞も、詩の延長戦のようなものだと勝手に思い込んでいた。
しかし、作詞は、詩と違い曲に合わせて書く為、フレーズごとに文字数が決まっている。そして、曲のイメージを崩さない詞を書かなければならない。それが、初心者の自分にはどれだけ困難だったか。途中で何度も嫌になった。書く気が失せて『やっぱり無理です』と作曲家に連絡しようと思った。そんな時、思いとどまったのは師匠のあの言葉が頭に浮かんだから。
『苦手な事を排除しない』

私は、人生初めて書く作詞を渾身の思いで完全させた。師匠の言葉をかみしめて。
作曲家からの反応は、『初めてにしてはいい出来です。続けていけばさらによくなると思います』

投げ出さなくてよかった。最近始めたライター業に関しても、途中で何度も挫折しそうになった。
とうとう『ライターやめます』と書いたメールを作成した時があった。編集部の人から、自分の書いた記事に色々ダメ出しされて全てが面倒くさくなったのだ。しかし、作成したメールを送信することはなかった。
編集部の人に指摘された所を直し、記事を提出した。

『完璧です!』編集部の人からの言葉だった。

この言葉を聞いた時『続けてよかった』そう思った。あの時、投げ出さなくてよかった。

『苦手な事を排除せず、続けていたら得られるものもある』
得られたものは『自信』だった。

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