【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
プロジェクトマネジメントを学んだ過去と今
千葉県 森 田 洋 介 26歳

私は会社で失敗をした。

そんなはずない、大学時代にあれだけ頑張っていたのに。

私は自分を見つめ直した。

この失敗を、今を生きる若者に、そしてかつての自分自身に伝えたい。


私は、大学にてプロジェクトマネジメント(以下、PM)という学問を6年間学んだ。PMとは、IT や建築などの専門性を持たない、言わば ‘ジェネラリスト’ を目指すための学問である。明確な将来の 夢を持っていなかった自分には最適の道だった。最も魅力的だった点は、数人で構成される疑似的なプ ロジェクト演習で、内容はソフトウェア設計からビジネスコンテスト、ボードゲーム作成など多岐にわ たる。率直なところ、ただ机に座って講義を聞くより、何倍も楽しそうだと感じたことが決め手だった。

プロジェクト演習では、様々な失敗を経験しながら、とにかく ‘がむしゃら’ に頑張った。最終発表 の前日に当初の計画が頓挫し、全資料を徹夜で作り直したこともある。150人の聴衆の前でプレゼンをし、 手の震えが止まらなかったこともある。メンバーと方向性の違いから口論になり、疎遠になってしまっ たこともある。最終評価が芳しくなく、人目をはばからず泣き崩れたこともある。そのどれもが泥臭い 思い出だが、間違いなく自分自身を成長させてくれた経験だと感じている。


私の頑張りは大学にも認められ、様々な賞を得ることができた。懸賞論文コンテストにてプロジェク トの失敗経験を論じて最優秀賞を得たこと、大学院に進学し、教授と切磋琢磨して書き上げたマネジメ ントに関する論文がジャーナルに掲載されたこと、大学院を総代として修了したこと。私は自信を持っ て「PMを学んでよかった」と誇れる大学生活を送ることができた。


大学時代の経験は社会人生活でもすぐに発揮できると信じ、OB・OGも多く、PMの考えが最も浸 透しているIT業界の会社に入社することにした。しかし、研修時から大きなギャップがあった。情報 系分野を専門的に学んだ ‘スペシャリスト’ の学生と未経験の学生では、IT知識レベルや技術経験に 差が生じる。学生時代に力を発揮したグループワークでは、専門的な知識を有する新人に引け目を感じ、 上手く自分の考えを言葉にすることができなかった。結果、私が力を発揮できたと感じたことは時間管 理とプレゼンのみ。「これが大学生活に学んできたことか」と、自分の無力さを嘆いた。このギャップは、 正式に配属先が決定してからも続いた。


また、会社では厳密に労働時間が定められていることや、資料の持ち出しは一切認められないことも あり、学生時代に何度もグループを救った ‘徹夜’ は当然行うことができず、悪習慣として私の首を絞 めた。大学でPMを学んだ他の卒業生も、実際の現場と学生演習における時間管理のギャップには苦しめられていた。


私は、『管理に必要なことは、‘専門性に裏打ちされたマネジメントスキル’ であり、‘マネジメントだ け’ を学んでも現場で人を管理することなど到底できないのだ』ということを痛感した。3年目の現在、 将来マネジメントを行うことを見据え、専門性の向上に取り組む日々である。


昨年、これらの経験を後輩に伝える・学びあう場を提供したいと考え、親交の深い大学教授の協力を 得て、自由参加できる ‘オープンラボ’ を立ち上げた。現在は月一回のペースで、在学生・卒業生が活 発な議論を展開する場となっている。私は、PMを学ぶ学生に対して在学中に何か一つの専門的な知識 を深めてもらいたいと考えている。そして、演習を行ううえで常に実際の現場との時間管理のギャップ を意識してもらいたい。PMとは目的を達成するためのツールであり、それを何に活かすかは自分次第 なのだ。私は、今後も後輩に自身の失敗を伝えていきたい。そして、いつの日か自身の成功を伝えたい。

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