【 努力賞 】
【テーマ:女性として頑張りたい仕事・働き方】
安心して子どもが産める現場
岐阜県 リーコ 35歳

「お母さん、へそ、ちょうだい」

3歳になる息子は、こう言って私のへそを触り、その後スヤスヤと眠ります。私はその息子の寝顔を見て、「この子を産んでよかった」と思い、同時に、子供を産む気になれた職場の環境に感謝するのであります。

 

私は長い間、小学校の常勤講師として勤めていましたが、当時の校長の勧めもあり、採用試験を受けることにしました。そして、合格し、初任者として働いた1年目のことです。

岐阜県では、教員採用の1年目は「条件付き採用期間」といい、その1年間については、場合によっては解雇されるというシステムをとっています。とはいえ、これまで、この条件付き採用期間に解雇される教員は聞いたことがありません。だから、安心と言えば安心なのですが、それでも、正式任用になるためにと、気合いは入ります。授業の準備、保護者への対応、初任者研修やレポートの提出等々、毎日が忙しかったですが、同じ教員でもある夫の助けや、職場の仲間の助けもあり、何とか頑張っていました。

そんな私が2学期に入ったとき、あの出来事があったのです。私は子どもを妊娠したのです。正直、産もうかどうか悩みました。もちろん、夫にはすぐに報告したのですが、職場の人には話すことができませんでした。「条件付き採用期間だから、解雇になるのでは…」という不安や、「職場の仲間や保護者に迷惑がられないだろうか」という不安があったのです。

そんな不安を最初に取り除いてくれようとしたのは、夫でした。後で知ったことなのですが、夫は私に内緒で、私の学校の校長に電話をし、妊娠のことを話していてくれたのです。校長は、その報告を快く聞き入れてくれ、私に優しく話しかけてくれました。

校長は、「何も心配することないよ」と、私の不安を打ち消すかのように、むしろ、妊娠したことを喜んでくれたのです。

同様に、職場の仲間も喜んでくれました。考えてみれば当たり前なことなのですが、子供を育てる現場で、子供の誕生を祝さないわけがないですよね。私は、本当にありがたい職場にいるんだなと思いました。

さらに、嬉しいことに、妊娠の事実を知った子供たちや、その保護者の方々も喜んでくれたということでした。会う人、会う人からありがたい声をかけて頂きました。

妊娠が分かってからも、産前休暇に入るまで、通常通り仕事をするのですが、職場の仲間がいつも私に気遣い、いろいろと助けてくれました。そのおかげで、私は初任者の条件付き採用期間の1年を無事過ごすことができ、その後、産前休暇に入ることができました。

息子の出産後、産後休暇を頂き、2年間学校を休み、昨年、私は職場に復帰しました。

当時の職場の仲間の中には、異動のため、同じ学校にいない先生もいましたが、初めて会う先生たちも、2年間休んだ私を快く迎え入れてくれ、子育てをする私をいろいろと気遣ってくれました。
「保育園、行かなきゃいけないんでしょ。後は、私がやっておくから、行っておいで」
「家にうちの子が小さい時に着ていた服があるんだけど、よかったらあげるよ」

何度も何度も、ありがたい言葉に救われたと思います。

小学校の現場は助け合いの現場です。仲間が困っていたら、助け合います。それが、大人が示す子供たちへの手本でもあると思います。

私は、この先、特に出世したいとかいう願望はありません。ただ、家族とともに、にこやかに過ごし、仕事を楽しく頑張りたいと思っているだけです。

でも、同僚教師が、悩んだり困っていたりするのならば、進んで手助けできる教師でいたいと思っています。

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