【 努力賞 】
【テーマ:「世界と日本」海外の仕事から学んだ事/日本の仕事から学んだこと】
フランスで働いて感じたこと
兵庫県 河本充 51歳

24年前あるフランスの会社に就職し、1年間日本で研修した後にフランスで働き始めました。日本人は私一人でした。日本はまだ高度経済成長期からバブル経済にかけての余韻があり、多くの日本企業は景気が良く、長時間働いて大量生産すれば海外に売れて利益が出る時代だったと思います。学生への求人倍率は高く、どこでも希望する会社に入れ、今の若者たちには羨ましい時代だったことは確かですが、今考えれば、迫っている危機を予感できない、ある意味浮かれていた時代だったと思います。

フランスで働き始めた1992年当時のフランスの景気は日本に比べ良くなく、失業率は10%前後、フランス政府は危機感を持ち色々な政策を打ち出していました。そのような状況にあってもフランス人は必ず年5週間のバカンスを取るし、日本のような長時間労働をする人はいませんでした。日本人の私は全く理解できず、「時間外でも改善活動をやって、たくさん働いて、いいものを安く作れば売れ、利益が出るはず。日本人のように休みを削ってでも働かないと経済は良くならない」と思っていました。

ところが、フランス人の上司に、「フランスではバカンスを5週間取らなければならない。フランス人は家族で旅行に出かけてバカンスを過ごす人が多い。ので、君もバカンスを取るように」といわれました。しかし、1年が経とうとしていた時、まだ2週間以上休暇が残っていたところ、また上司に呼ばれ、「今年中に全部休暇を取るように。有給休暇を取らなかったら、会社がその分支払わなければならないので」と。驚きました。

また、その会社では、基本的に長時間残業をする人はなく、遅くとも夕方7時には帰宅していました。できるだけ残業をしないようにするため、勤務時間は非常にスピーディーに効率よく働くことを心がけている人がほとんどでした。案件の重要度により権限移譲が明確で、無駄な社内報告や会議がないよう、上層部から下のクラスまで認識され、それぞれの責任範囲を持って仕事していたように思います。管理職で残業が多い人は効率が悪い人と評価され、一般従業員の残業は生産コストの増加に直結するので、できる限り残業をさせないようにしていました。生産効率を上げ、労働時間を短くし、バカンスを含め毎日の家族との時間を充実させることがフランス国民の中に浸透していることを感じました。フランスのバカンス制度や労働時間についてはいろんな論文が出されているように、大昔の話ではありません。労働者の健康、長期的な経済効果、国力向上などのバランスをとりながら、発展させてきたように思います。

思うところがあり、私は8年前からある日本のメーカーに勤務しています。労働時間と通勤時間が長く、平日に家族で過ごす時間は多くありません。「残業時間を減らし有給休暇をとりましょう」という掛け声はありますが難しく、長時間労働ですし、毎年有給休暇を捨てています。新興国のように、大量生産し、輸出で儲ける仕組みであれば、長時間労働は利益に直結するのですが、日本はもう新興国ではありません。しかし、新興国時代の日本人の意識が残っているのが現実です。

私は危機感をもっています。人間の最小単位である家族生活の充実と仕事の両立が必要です。それにより一人一人の能力向上による労働生産性を向上させ、国力を高めなければ、貧困国になってしまいます。高度成長期やバブル経済の時代に引きずられないよう、若い人たちには長期的視野で、フランスの例も含めた海外の先人たちの例も参考に、自分の頭で考え、勇気を持って行動しながら日本らしい仕組みを構築しなければなりません。私も勇気ある若者を応援するように努力します。一人一人の毎日の小さな勇気ある行動が大切だと思います。

戻る